2014年02月07日

日本ハム監督 栗山という男 3

日本ハム監督 栗山という男 最終章

 過去2回にわたり日ハム栗山監督の人間的素晴らしさを紹介してきました。
 そして今回が最後となります。

 昨年6月、私は神宮球場でヤクルトとの交流戦を観戦しました。私はバックネットのすぐ裏で選手一人ひとりのプレーや表情を観察していました。その試合で驚かされるプレーがありました。それは大谷選手の左中間に放った長打です。走者を二人おき、試合が決まる局面。ライアンこと小川投手の外寄りの球を、一瞬それを見送るかな、と思った瞬間、スっとバットが出てきて瞬く間に打球が外野手の頭上を越えていったのです。
 大谷選手の柔らかで無駄のない感性が見事に表現された打撃だったと思います。
 その高卒のルーキーは投手としても勝利を挙げ、二刀流としての順調なスタートを切りました。多くの評論家は一つに固定するべきとの意見でしたが、このような新たな挑戦を促せるのも日ハム、そして栗山監督ならではの発想の豊かさや柔軟な考え方にあるのではないかと思います。
 さて、その試合後の夜、大学時代の同期が集い栗山と食事を共にしました。その時に彼が語った中の心を揺さぶる話を紹介したいと思います。

 日ハムにはサイレントKと呼ばれる左投手がいます。そうです石井投手です。彼は生まれつきほとんど耳が聞こえません。栗山監督1年目後半から大活躍しチームの優勝に貢献しました。140K前後のスピードと素直なフォームの彼が相手打者を面白いように翻弄していきます。
それは1球1球に思いを込めた彼の見えない力がボールに込められたものだと思います。
 そんな彼を栗山も信頼して使っていました。
 そして日本一をかけたジャイアンツとの日本シリーズ。短期決戦の中の一番のポイントとなる試合で石井は阿部に逆転ホームランを打たれることになります。
その時のショックは石井にとってどんなに大きなものだったでしょうか。彼は翌日のスポーツ新聞の「石井で負けた」の記事を部屋に貼り付けました。「この悔しさを絶対に忘れない」という思いだったのでしょう。

 しかし、その記事を家族はどんな思いで見ていたのでしょうか・・
 その後、栗山は石井投手の奥さんと優勝旅行で会い、こんなことを伝えたそうです。
「奥さん本当にすみません。石井で負けたことは納得しているし、こいつのおかげであそこまで行ったのに、最後は背負わせるようなことになっちゃって・・悔しくて新聞記事を貼り付けているって聞いて、本当に申し訳なくて。逆に感謝しているんです。本当にごめんなさい。(栗山英樹著「伝える」より抜粋 KKベストセラーズ出版)
 
 その場で奥さんは涙を流したそうです。それは言うまでもなく選手の家族も温かく見守る監督への感謝の気持ちだったはずです。そして栗山もそんな夫を支える奥さんの素晴らしい人間性を讃えていました。

 栗山と私が交わしたシーズン中のメールの中で一貫して彼が伝えていたことは、選手を信じることと愛することだけだったと思います。
 勝負の厳しい世界では、勝利を求めるあまり一番大切にすべき「人間性」や「信頼」そのものさえ捨ててしまうことが多々あります。
 しかしその厳しいステージの頂点に立つプロの世界で「それ」をコンセプトに戦っている監督がここにいます。
 
 それは単なる勝ち負けではない、重要なメッセージを私たちに送っているかのようです。

 野球を愛するたくさんの子供たちがこの沖縄にもいます。試合に出られなくても、あるいは勝てなくても一生懸命練習する純粋な子供たちがたくさんいます。そんな子供たちを指導者はしっかりと愛情を示し立派な人間として育てほしいと思います。

 実を言うと私自身、監督の経験があります。もうだいぶ前の話ですが当時を思い出すと「未熟で選手たちにも迷惑をかけてしまったな」、という反省の思いです。
 
 開幕はもうすぐやってきます。私自身「学びながら応援していきたい」と思っています。また何よりも、すべての球団の全ての選手たちにがんばってほしいと思います。
 素晴らしいプレーや感動を日本中に届けて欲しいと思います。


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Posted by 比嘉正央 at 11:31│Comments(0)先生のひとりゴト
 
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