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Posted by TI-DA at

2012年05月11日

ある高校入試の面接で

   ある思い出  ~高校入試の面接~

 ある年の高校入試面接のことを思い出しました。
その年の面接はいつもと違うことがあったのです。
それは、
この学校に初めて車椅子の生徒が受験したことです。
偶然にもその生徒の面接官に私はなりました。
一人の職員が約10名の受験生の面接を担当するのですが、面接官にも一通りの質問事項が用意されます。
「志望の理由は?」
「入学後はどんなことに頑張りたいか?」
などと、ありきたりのことです。
それに対して受験生もあらかじめ質問を予想していて
「はい、僕がこの学校志望したのは・・」などとまるで用意された文章を読み上げるように答えていきます。中学校で何度も練習をして覚えているのです。

 私はそれがつまらないので、受験生がびっくりしてしまうような質問を時々行なっていました。その生徒の本当の思いや心の声が聞きたかったのです。

 さて、その車椅子の生徒の面接の番になりました。
 始めは、用意された質問事項の質問です。
 しかし、その車椅子の生徒S君は、はじめから自分の思いを素直に話していきます。

 いろんな質問を投げかける私が何を聞きたいのか? なぜそんな質問をするのか、という聞き手の意図を読みとったようにS君は答えていきました。
 それは、表面的なものではなく、心の奥深くから出てくるような素直で思慮深い答えの数々でした。そして誠実に答えようとするS君の姿勢からも人並みはずれた、10代とは思えない感性を感じることができました。彼はきっと大きな使命を持って生まれてきたのです。

 彼は晴れて入学。
 そして、面接のときから卒業するまでずっとS君を付き添うお母さんが傍にいました。お母さんも苦しみを外に出さず、何でも笑顔に変えていく素晴らしい力を持った人でした。

 S君は卒業後どうなったのでしょう。
 はい。在校時からそうであったように、私とは深い付き合いをしています。お母さんも一緒の家族付き合いです。

 しかしS君は僕との距離をしっかり測っています。離れず、近すぎず、という感じでしょうか。
 あまり近すぎると離れられなくなるのを彼は感じているのではないか、と僕は勝手に考えています。「もうしばらくは僕を自由にしてくれ!」という感じです。
 いつか彼の心境を聞きたいと思いますが、ときおりお母さんと僕の噂話もしているようです。その時は在校時と変わらず僕の名を呼び捨てにし、笑いこけているようです。

 彼が今後どんなに素晴らしい人生を歩んでいくのか、僕は彼に対する期待と共にそれをいつも楽しみにしています。

  


Posted by 比嘉正央 at 14:12Comments(0)先生のひとりゴト