2014年05月10日

その人の人生

 昨日、ハンセン病療養所協議会の会長、神 美知宏氏がご逝去されました。ハンセン病市民学会で草津を訪れているときに、突然帰らぬ人となりました。80歳でした。

 私はその前日、これからの人権啓発事業について新たなプランを神会長と話し合っていました。
 氏の言葉にはいつも聡明で、かつ深遠な感覚を覚えました。

 私の人生に大きな影響を与えた方でした。
 ご自分の人生を自らの苦難と、人々の救済のために捧げた人です。

 以前に神氏について投稿した記事を再掲載させていただきます。



 「その人の選んだ道」

  その人はいつものように、深い境地にあるかのように静かに語り始めた。不思議だ。この人の側にいるとなぜかこちらまで厳かな気持ちになる。魂が揺さぶられるのを感じる。その人とは、この6月に全国ハンセン病療養所協議会の会長に就任された、神美知宏(こう みちひろ)氏。

 彼は高校時代にハンセン病を発病、香川県の離島にある大島青松園に送られる。当時の我が国の法律によって、一生そこから出られないとわかった時から彼は「自ら死を選ぶべきか」を考える苦悩の日を歩む。しかし、そんな人間としての尊厳をすべて奪われた彼に「愛を打ち明ける」看護婦がいた。

  社会に渦巻く偏見の中、成就することのないその愛。二人は共に泣きながら別れの日を迎える。しかし、彼女が彼の心に巻いた種は、彼の中で生きる力へと育っていった。そんな彼が30代の頃、療養所の所長から「私の責任で君をここから出してあげても良い」という言葉を頂く。ハンセン病はすでに完治する病気でもあったのだ。しかし、悩んだあげく彼はその受け入れを断る。「私がここを出て誰も知らないところで病気のことを隠して生きていけば、人並みの生活が送れるかも知れない。しかし、私個人の幸せではなく、すべての仲間の幸せにつながるものを勝ち得ねば」。

 彼はその時、自らの人生をハンセン病の人権回復に捧げる決意をしたのだ。76歳を迎える神さん。彼は今日も自らの身体に鞭を打ち、人間の尊厳そのものを彼自身で表現し生きている。



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Posted by 比嘉正央 at 09:56│Comments(0)先生のひとりゴト
 
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